煩悩パラダイス

フリーランスライターの日々の雑記帳

100円の神頼みと夜光虫@鎌倉その2

※続きのお話

 

日帰りでも充分楽しめる鎌倉で一泊する理由は、美味しい夕飯と美味しいお酒をたらふく食らうためだ。それに今回は、夜光虫も見なければならない。

「後半戦」に備えて一度宿へ戻り、チェックアウトを済ませると、仮眠を取る。

朝が早かったので、前日寝ていなかったのだ。早朝出発が苦手な私は、いつも眠らずに朝を迎えてしまう。

目が覚めると、さっぱりとした気分でお腹もそこそこ空いている。

気になったいくつかのお店へ予約を入れるも、どこも満席。キャンセル待ちにしてもらい、連絡先を告げて電話を切る。

「もう居酒屋でいっか……。焼肉でビールにするか……」

諦めムードでとりあえず由比ヶ浜へ向かう。日没に合わせて海岸へ行って、夜光虫が出て来るのを待ち構えるためだ。

あれだけ暑かった日中とは打って変わって、肌寒い。

コーヒーを買って飲んでも、歩き回っても、どんどん体温を奪われて行く。

おまけに潮で髪も肌もベタベタしてきた。

 

日没の時間を過ぎても、夜光虫は姿を見せない。海岸沿いの車の渋滞で、真っ赤なランプがどこまでも続いている。

これ、本当に見られるの? こんなに明るくても光るものなの?

だんだん不安になってくる。すでに1時間以上待っているのだ。行列が嫌いなのに。

そうこうしていると、さっき飲んだコーヒーのせいかトイレに行きたくなってきた。

その場にいるのも飽きてきたので、近くの公衆トイレへ向かう。

トイレを済ませて、風でぐちゃぐちゃになった髪を整えて、外へ出る。

 

そこは一面、コバルトブルーの海へ変わっていた。

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夜光虫だ。

(※画像は動画から切り取ったものなので、画質がいまいち)

 

波が立つとそこここに、蛍光色が現れる。

思わず歓声をあげてしまった。

自然界に不似合いなその色は、神秘的で異質で怖いくらいに綺麗だった。

大昔の人は、これを見たら恐れ慄いたのじゃないだろうか。

私のつたない言葉では表現できない感情がこみ上げてきて、黙ったまま海を食い入るように見続ける。

 

もう夕飯は何でもいいや。

こんな光景見られたんだから、お腹いっぱいだ。

満足するまで海を眺めたらそんな気になって、小町通りを目指して歩き始めた。

するとスマホが鳴る。電話に出ると、一番行きたかったお店から、席が空きそうなので予約が取れますよ、という連絡だった。

 

なんだか今日はついてるぞ。

大喜びでお店へ向かう。

私の「嗅覚」は本当に素晴らしい。

目当てのお店は、分かりづらい場所にある何の変哲もないビルの一室にあるものの、店内はとても雰囲気が良い。小洒落ているのに店員が気さくで、肩肘を張らなくていい、心から料理とおしゃべりを楽しめるお店だった。

お酒と料理を存分に味わってお店を出たものの、夜は長い。

まだまだ飲み足りずに、2軒目を探し始める。

すぐ近くに、これまた雑居ビルのような建物の2階に、飲めそうなお店を見つけた。

ちょうど席が空いていたものの、常連さんがいっぱいで、若いやんちゃそうな店主がひとり。

ちょっと居心地の悪さ感じつつ、焼酎を頼んで連れとぼそぼそ会話をしていると、それまで常連とおしゃべりをしていた店主の言葉に、連れが反応する。

いきなり店主へ

「●●●!? 横浜の☓☓☓で飲んでた●●●!?」

と叫んだ。

 

連れがかつて住んでいた横浜では、とんでもなくきっぷのいい沖縄料理屋があって、そこで毎週末知らない人も知っている人もみんなで仲良く酒を飲んでいたそうだ。

どうやら店主と連れはその店で会っていたらしい。

偶然の再会にいたく驚いて、それまでの「新参者」としての居心地の悪さは消えてしまい、会話が弾む弾む。私もいつの間にか、お店の常連さんと一緒に飲んでいた。

少し変わり者の数学者に、エリート商社マンのサーファー、みんな話が面白い。

あっという間に日付も変わり、お店の閉店時間も過ぎてしまった。

千鳥足の連れと小町通りへ戻ると、昼間の混雑が嘘のような静けさだった。

 

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ろくに会話もままならない連れと歩きながら、鶴岡八幡宮へ続く通りを眺める。

今日の夜光虫は、見慣れた地元の人でもめったに見られないほどの美しい景色だったそうだ。

お店の予約にキャンセルが出なければ、美味しい夕飯にはありつけなかったし、あの小道にあるバーにも行くことはなかった。偶然の再会は永遠に訪れなかっただろう。

 

きっと鎌倉で生きる人の幸せを気まぐれに願った私へ、鎌倉の神様が小さな贈り物をしてくれたのだ。

無宗教だし、神に祈る習慣はないけれど。

暑さが和らいで紅葉が見頃になったら、今度は年末の宝くじを買うための諭吉を洗いに行くだろう。その時には再び寿福寺を訪れて、「ありがとうございました」とお礼を告げに行かなければ。

 

そう思ったGWの思い出。